働き者ーHard Worker

 この町の靴修理屋さんの話を以前もしたが、先日いくつか持ち前のベルトに穴をあけたくて、3つほどベルトをもって再び来店した。

 一つのベルトに2,3個穴をけるだけで、日本では軽く2千円以上すると思っているが、間違っているだろうか。かなり前になるが、日本のお直しの店で、カバンのショルダー賭けの穴を余分に開けてもらったときそのくらいして驚いた記憶がある。

 だから、まずはいくらか聞いて、予算の都合を考えていっぺんにいくつ頼むか決めようと思って聞いてみると「2ダラー($2)」と、そのおじさんは言った。「今すぐ開けてあげるよ、ちょっと待ってくれたらね。」と、隣の服屋のお店を営む息子さんと何か確認している最中に言った。

 2ドルというのは日本ではありえないことだけれど、おじさんからしたら、プチっと開けるだけで物の数秒で終わる作業(もちろん初めに穴の間隔を図るけれど、それも目の前で10秒かからずすべて終わる)。いったいどうして日本ではあんなにチャージするのかわからない。

 とにかく安く感じたので、ここはキャッシュで払うべきだろうと、お釣りをもらわず$10ドル払うと、ほんのちょっとの志なのに、とてもありがたそうにもらってくれて、「ハブァグッデイ (Have a good day)」と笑顔で送ってくれた。

 そしてその翌日、開けてもらったベルトの一つが、やっぱりもう一つ余分に穴があったほうがよさそうだったのと、もう一本開けてほしいベルトがあったため、再び来店。店にはいるとビックリして「(昨日穴を開けたベルトに)何か支障があったのかと思ったよ」といって、同じように手際よく穴をあけてくれた。その間、ふと入り口の壁に立てかけてある新聞の記事の切り取りに気づき読んでいた。おじさんが取り上げられている。

 すべて読む時間はなかったのだけれど、その記事によると、おじさんは1970年代に故郷シリアを離れ、モントリオール(あれ、トロントだったかな?)に到着する。はじめのカナダでの仕事は、屋根を直す仕事で、カナダの厳しい冬に対応できる服もないまま真冬でも外で仕事をした。あまりの寒さに本当に涙が出たという。時給は30セント。え?!どうやって暮らしていたのだろう思うほど安い。そのうちほかの仕事に移りまあ10倍の自給になった。それでも安いが、一日14時間働いたという。親せきを頼りカルガリーに引っ越し、お金をためて、一度シリアに帰り、アレンジされた結婚をする。とはいっても、相手の女性のことは昔から知っていたという。彼女をカナダに連れて帰り、家を借り、靴修理の店を開き今に至る。

 と、この辺まで読んで「できたよ」とベルトが戻ってきた。合計三つ穴をあけたので、本当だったら6ドルプラスタックスなのだけれど、「今日はノーチャージだよ」という。絶対それはいただけないと、5ドルの札を持っていたのでおいていく。それでも足りていないのに、いいのかい?という気のいい笑顔で「あー、ありがとう」と言ってくれた。

 こんな働き者で、お金儲けに欲を出さない人はとても貴重で尊敬する。もしかしたらワイフは「あなたもうちょっと欲を出して」と思っているかもしれないけれど、とにかく頭が上がらない人格者だと思う。ぐーたらな自分にいい刺激で、あまりにも怠惰な時はこのおじさんを思い出そう。その一日を私の良き日としてくれた人。

 

 また一週間💛