翌朝、まずはTafraoutのダウンタウンとでもいおうか、スークやデリやレストランなどがある、ホテルからは車で10-15分離れたところに行って、必要なものを買う。水、そしてホセのカメラだか携帯高のバッテリーなど。買い物を待っている間、ふと店の外の広告に目が行った。空手の広告だった。ダーリンを呼んで訳してもらうと、確かトーナメントがあるとの広告だったと思う。このような場所でも空手が知られている。
空手はなかなか世界をつないでいる気がする。10歳になる甥っ子の一人は、ただでさえシャイなのに、英語しかしゃべらない外国人の私にはなおさらなかなか懐かず、いやいやキスのあいさつをしてくれている感じであった(彼は完ぺきなフランス語とアラビア語のバイリンガルで、3歳ぐらい違う妹とは流ちょうなフランス語でしゃべる)。カナダに帰る日になってやっとちょっと心を開いてくれたのは、空手を披露してくれた時だった。「おっす」とお辞儀をして、はにかみながら、しかし嬉しそうに演技してくれた。
さて、スークではワックス入りのはちみつを試食させてもらい、また明日戻ってこようと後にして、目的地へ車を走らす。
着いたのはアンティアトラスの中のオアシスと呼ばれる場所。ごつごつの山の中、ヤシの木がいっぱいの水の流れる秘密の場所。辺りはザクロ、いちじく、オリーブなどの木々も豊富であったが、なんといってもパームツリー。デイツが熟すのを待って実っていた。
リサは5か国語をしゃべるツアーガイド。この旅もちょっとした下調べで、モロッコ内のバスツアーを考えている。広告用に写真を撮って専属会社に送ることもちょっとした宿題。
宿に帰る。今夜は宿の夕食はなく、外食をしてくれと言われていた。どうやら、今晩来るドイツ人の宿泊客の予約を忘れていて、食料を遠い町まで調達に行かなくてはならないという事情があったようだと後で分かった。ところが、なんだかんだお酒も入り、辺りも暗くなり、町まで行く感じではなくなった私たち。
そこで、リサと私がキッチンの奥様に頼み込む。「あれ、今日はレストランで外食のはずではなかったかしら」と奥様。「そうなんです。ところがです。ちょっとした問題が発生しました。屋上の星があまりにもきれいで、今、星の勉強をしているところで離れられないんです。それで、勉強を続けるために、ちょっとしたおつまみでいいのでいただけないかと思ってるんですけど。」と、ユーモアたっぷりだが、見え透いた嘘をドラマチックに流ちょうなフランス語で話すリサ。わざと驚いた顔をする奥様。私は何を話しているかわからなかったものの、ニコニコして横にいる、という役。そして「わかったわ。一つだけ約束ね。下には他のお客さんが宿泊していて屋上の会話はすべて聞こえるから、どうぞ騒がないでね。」と付け加え、おいしいサラミ、2種類のオリーブ、ナッツ、ワイン、パンを用意してくれた。従業員に運ばせようとしたが、「いえいえ、ちょっと失礼。」とリサがキッチンに入り込み、トレイをさっと手に取った。
その後は、誰かが大声を出そうものなら、「ちょっと、あそこの上に登ってツル下げられたいあの!」という忠告を忘れないリサ。小声で話そうとするとさらに盛り上がっておかしくなる私たち。次の日はとても名残惜しくここを離れる。