カナディアンドリームーCanadian Dream

ダーリンのパスポートの切り替えの時期がきて、申請するにあたってカナダのシステムにちょっと驚いたことがあった。カナディアンパスポートの申請には、リファレンスを必要とする、ということ。

 

ドラマの「Downton Abby」を見ていても、そこで働いていた人々が辞めざるを得なくなった時に必死に気にしていたのが、良いリファレンス(推薦状)もらえるかどうかということであった。 カナダで仕事に就く場合も、書類選考、面接まで受かった後、最後の要となるのがリファレンスである。昔ながらの英国のシステムなのかなんなのか、とにかくソフトスキルを重視するというのは以前書いたけれど、どれだけほかの人とうまくやっていけるか、仲間内での評判はいいか、というのが大きな要因のようだ。

 

そしてカナディアン達は自然にそういうことが大事ということを、ずいぶん若いころから心得て身についているように見える。どんな仕事も次のステップのために23年をめどに頑張る若手の職員。自分の若いときを振り返ると、そんなことを気にしたこともない、自由奔放型の横着な人間だったよなあ、と思わざるを得ない。

 

けれど、パスポートの更新や申請にリファレンスが必要というのはちょっと行きすぎだと思う。アメリカではまずありえないだろう。そんなシステムを裏返すかのような話があった。アメリカンドリームならず、カナディアンドリームを手にしたソマリアからの難民女性。16かなんかで子供を産んで、自国では子育てや家事の仕事と、生きることで精いっぱいだった。カナダに移住後初めてのジョブインタビュー。というより、ここで働かせてください、と駆け込んだのだった。すると、「では履歴書とリファレンスをおくってください」と言われる。「履歴書?何ですかそれ」と問うと、「今までの職歴や学歴、経験などが書かれた書類です。それと、2人ほどあなたのことを知っていて推薦してくれる人の連絡先を教えてください。」と。彼女は言った。「私は16歳で子供を産み、以来子育てと家事しかやったことがないの。学校も行ってなければ、職を得たこともないんだから。ここでその履歴となることを始めさせてちょうだい。」と。

 

長い話を短くすると、それから年月が経って、彼女はカナダで初のソマリア難民からのスタンドコメディアンになる。ほんとうに、世の中素晴らしい人がいるものである。それから、リファレンスがなくても職に就かせてくれた初めの職場も寛大だと思った。最も彼女だったからできたことかもしれない。古いシステムは変わらずあっても、ケースバイケースがあるのが、日本の「フェア」という名の下にある融通の利かないシステムとの違いかもしれない。